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Apple 2030とは:地球のための壮大な目標へ

Appleは、Apple Eventなどの製品発表の場を中心に「Apple 2030」という目標とそれに対する製品の立ち位置を明確にする発表を行なっている。読者の皆様もおそらく一度は聞いたことのあるであろうフレーズだが、これが一体どのような内容の目標で、且つ現在地点はどこにあるのか。今回はそれについて詳細に解説する。

目次

Apple 2030の概要

Apple 2030とは、Appleにおいてその事業から製品ライフサイクルまですべての領域でカーボンニュートラルを2030年までに達成するという目標だ1。この目標を実現するため、Appleは再生可能エネルギーの活用、製品のリサイクルと再資源化、サプライチェーン全体の脱炭素化など多角的なアプローチで環境負荷の低減に取り組んでいる。

カーボンニュートラル
温室効果ガス(CO2)を排出しないようにする、または排出したCO2を植林や森林保護などによって自然の力で吸収し実質排出量を相殺する(=カーボンオフセット)。

WMO(世界気象機関)とUNEP(国連環境計画)によって設立されたICPPが提唱する目標である2050年より20年前倒しで実現することを目標しており、Apple自身「IPPCの推奨よりも積極的だ」と喧伝している2

2013年、Appleはリサ・ジャクソン氏を副社長として招聘した。同氏は黒人女性科学者で、オバマ政権において米国の環境保護庁長官を務めていた3。しかし、米国で働くよりもグローバル企業であるAppleの方が全世界規模での環境保護に役立てられるとして、Appleでの環境対策を推し進める第一人者となった。

Apple自身のカーボンニュートラル化

Appleは自社のデータセンター、オフィス、Apple Store(直営店)など全ての拠点で100%再生可能エネルギーを使用しており、2018年以降世界44ヵ国の拠点で消費されるエネルギーはクリーンエネルギーになっている。このためにAppleは各地で自社主導の再生可能エネルギーの発電プロジェクトに投資し、その結果として社内利用分1GW超を誇る発電能力を確保できた4。例として、米国オレゴン州ではそのデータセンターに電力を供給するためのMontague風力発電所(200MW)を立ち上げた。

オレゴン州にあるMontague風力発電所。(画像:Apple)

また、本社「Apple Park」は2018年から使用開始した施設で、宇宙船にも見えるその円盤上の建物の屋上には17MWの発電能力を持つソーラーパネルが設置されている。これにより本社で使われる電力が賄え、さらに周辺の電力線に流して販売もできている。また、省エネにも努めるため、採光性の高い全面ガラスのデザインや、ダイキンのエアコン、三菱電機のエレベーターを採用するなどして使う電力量を削減する工夫がなされている5

天井にソーラーパネルが敷き詰められたApple Park。(画像:Apple)

これらの取り組みにより、2018年にはApple自身の事業はカーボンニュートラル化され、それ以降2030年までの期間にScope3に当たる資源調達やサプライヤーによる製造過程、輸送やユーザーによる使用過程のカーボンニュートラル化を進めることになる。

Scope1
企業や組織が自らの活動で直接排出するGHGのこと。
Scope2
電力会社から購入した電気など間接的に排出するGHGのこと。
Scope3
バリューチェーン(原料調達や輸送、使用など)全体で発生するGHGのこと。

現在の状況

現在、Appleの温室効果ガス排出はその6割を製品の製造段階に由来しており、残りは3割が製品使用時(ユーザーによる充電)、1割が製品輸送となっている。

サプライヤーへの働きかけ

前述したように、半分以上を占めているサプライヤーに働きかけることが重要であり、製造時に使用する電力をクリーン化することが間接排出を大幅に減らすことにつながる。2024年時点でAppleのサプライヤーによる再生可能電力導入量は17.8GWに達し、年間2,180万tの排出を削減できたほか6、サプライヤーと協働した省エネ改善により、追加で200万tの排出低減効果も創出している。昨年4月時点で世界28ヵ国320社以上のサプライヤーがAppleのクリーンエネルギープログラムに参加し、Appleの直接製造コストの95%を占めるサプライヤーが再生可能エネルギーへの移行を約束した。

次に、素材調達の低炭素化と循環利用も重要な施策だ。Appleは「採掘からリサイクルへの転換」を掲げ、製品に用いる各種素材をリサイクルまたは再生可能資源で置き換えてきた。2024年時点でタングステンの99%、アルミニウムの71%、リチウムの53%、金の40%、コバルトの76%が再生材由来となっている7。さらに、磁石が使われるレアアースはApple製品において大量に消費されるが、今年2025年には全製品の磁石で100%が再生希土となるほか、バッテリーに含まれるコバルトも99%が再生品に到達した。

さらに、排出削減自体も行われており、製造プロセス自体の省エネ化・高効率化を進め、2022年には100以上の工場で合計20億kWh以上の電力削減、CO2換算で170万tの排出削減も達成した。

製品使用時の排出削減

前述したように、この目標には「ユーザーの使用時」も含まれている。そのため、Appleはエネルギー効率の高い製品設計と顧客側での再生可能エネルギーの活用を推進している。米ミシガン州で132MW、スペインで105MWの太陽光発電所への大規模投資をすることにより、ユーザーが再生可能エネルギーを使うための環境整備が進んでいる8

その電力使用量そのものも削減するため、電力効率の非常に高いApple Siliconを2020年以降Macに搭載したり、iPhone 16eでは自社設計モデムC1を搭載したりと製品自体の省電力性能も向上した。これにより使用段階での消費電力量とそれによる排出を削減することに成功している。

さらに、米国内で使用されるiPhoneには「クリーンエネルギー充電」という機能が実装された。この機能は、その地域の電力線に流れる電力が再生可能エネルギーである可能性が高い時間帯の充電を優先する機能で、2022年から実装されている。これにより、夜間など長い時間充電しっぱなしになるシチュエーションにおいてはクリーンエネルギーを最大限活用した充電ができるようになった。

輸送の低炭素化

Appleは近年、可能な限り海運や鉄道を利用して航空輸送を削減する物流最適化を進めることで排出強度を下げている。従来では航空輸送を多用して在庫を減らすことがセオリーであったが、それ以上に輸送にかかる低炭素化を優先した格好だ。その成果として、輸送由来排出は近年減少傾向にあり、2022年比で2割もの削減が実現している9

さらに、一度に輸送できる量を増やすため、パッケージの軽量化・小型化も推し進めている。2020年10月以降、iPhoneのパッケージからは古の5W電源アダプタとEarPodsの付属を廃止し、薄型化したパッケージに変更された。また、その梱包を遷移素材を中心とすることでプラスチック削減と容積圧縮を図っており、HomePod miniの新パッケージ以降をもってビニールによる外装も廃止することができた。

HomePod miniのパッケージが新旧並ぶ様子。オレンジ(手前)は当時未更新だった。(筆者撮影、Apple 表参道にて、2025年3月)

他社との比較

Microsoft

Microsoftは、2030年までに自社とサプライチェーンの排出を半減させ、残りの排出より多くの炭素を除去することを公約している。しかし、同社のクラウド事業拡大に伴うデータセンター建設、ハードウェア調達の影響でScope3排出が2020年比で+30.9%、総排出量でも基準年比+29.1%と悪化している。Scope1/2は6.3%減らしたものの、サーバー用半導体や建材など需要増によるサプライチェーン排出増を全く相殺できていない状況である10。製品では、Copilot +PCのパートナーにQualcomを選択しSnapdragonチップを搭載したが、ARM系への移行ではAppleに遅れをとっている状況である。目標だけを見ればAppleに匹敵するものの、実態はそれと程遠いのが現状だ。

Google

Googleは、2030年までに全バリューチェーンでネットゼロ排出を発生するとともに、2019年比で50%の絶対排出削減を目指す目標を掲げている。しかし、前述したMicrosoftと同様にデータセンター需要やAI関連の設備投資拡大などにより排出が増えている。2023年の総排出量は前年比+13%、基準としていた2019年比では+48%と目標とのギャップが拡大中である。その排出は75%をScope3が占め、サプライチェーン対応の遅さが浮き彫りとなっている。もっとも、Google自身「AI需要による設備投資で当分はScope3排出が増加するだろう」と認めており11、2030年の目標達成には相当な巻き返しが必要になっている。

Samsung

Samsungは、前述した3社と異なり、Scope1/2のみ2030年、全体では達成年を2050年に設定している12。具体策として、自社工場でのプロセスガス排出削減技術の7兆ウォン投資や事業所の再生可能エネルギー化(RE100への加盟)などを進めている。しかし、Scope3には明確な中間目標を設けておらず、2019年基準の全排出量のうち80%は前述の目標に対するコミットメントがないなど13、その目標は前述3社に比べ非常に緩やかである。

すでに達成している製品

Apple Watch

Apple Watchは、2023年に登場したSeries 9・Ultra 2・SE (第2世代)と最新のSeries 10がカーボンニュートラル化されている。特にSeries 9を発表したApple Event・Wonderlustでは「Mother Nature」という茶番劇ショートムービー14があったのも記憶に新しい。同製品はApple史上初のカーボンニュートラル化されたモデルであり、環境対策におけるマイルストーン的な役割を担う15

筐体の素材も、カーボンニュートラル化がされていたのは当初再生アルミニウム筐体のSeries 9とSE、チタニウム筐体のUltra 2であり、ステンレススチール筐体のSeries 9では実現できていなかったことを踏まえ、Series 10ではステンレスの代わりに鏡面加工されたチタニウム筐体を採用し、そのうち再生チタニウムを95%含むことでUltra 2と同様にカーボンニュートラル化を達成した。

また、これに合わせてレザー製品は廃止され、レザーが使われてきたレザーリンクとモダンバックルについては、それぞれ素材をFineWovenに変更してマグネティックリンクとモダンバックル(名称変わらず)として販売されている。また、Apple Watch HermèsについてもAppleで取り扱うバンドは全て布製品や樹脂製品になっている(本革についてはHermèsの直営店とオンラインブティックで引き続き販売されている)。

Apple Watch Discoverに設けられたCarbon Neutralコーナー。(筆者撮影、Apple 丸の内にて、2024年1月)

Mac mini

新筐体デザインになって登場したMac mini (2024)は、Macで初めてカーボンニュートラル化されたモデルとなった16

全体の50パーセント以上に再生素材を使用して製造され、筐体に100パーセント再生アルミニウム、自社設計のプリント基板のメッキに100パーセント再生金、すべてのマグネット部品に100パーセント再生希土類元素が使用された。筐体は衝撃押し出し工程が採用されていて、アルミニウムの使用量を85%削減し、筐体をより小さく製造したこともカーボンニュートラル化への一助となった17

再生アルミニウムの採用については新筐体となったMacBook Air (2018)から続いており、ついにカーボンニュートラルをMac miniで達成できたという格好だ。
ちなみに、そのMacBook Airも全体の55%に再生素材を利用するなど、新たなステージに進んでいる。

終わりに

これらの取り組みにより、基準年となる2015年と比べてGHG排出量は実に75%も削減された。2023年の報告では55%であったことを考えると常に前進し続けている。この75%という削減幅は同期の売上高の増加率67%を上回る数字であり18、事業拡大と排出削減の両立(デカップリング)が実現できている証である。

なお、現在Apple Storeでは一部の製品をリサイクルに出すことによって対象製品が10%OFFで購入できるキャンペーンを5月16日まで行っているため、そちらも要チェックだ。

今後は、さらにカーボンニュートラル化を推し進め、あと5年というタイムリミットに向かってさらに地球が良い方向へ向かっていくことを切に願う。最後に、冒頭でも紹介したリサ・ジャクソン氏が先日のリリースで話していた内容19を掲載して〆とする。

私たちのビジネスのあらゆる部分に関わるApple 2030に向けて前進していることを非常に誇りに思います。現在、私たちはこれまで以上に、より多くのクリーンエネルギーと再生素材を使用して製品を作り、世界中で水資源を大切にし、無駄を防ぎ、自然に対して大きな投資を行っています。2030年が近づくにつれて、この取り組みにさらに力を入れています。イノベーション、連携、そして緊急性を持って、この課題に対処しているところです。

  1. https://www.apple.com/jp/2030/ ↩︎
  2. https://www.apple.com/environment/answers/ ↩︎
  3. https://www.apple.com/jp/leadership/lisa-jackson/ ↩︎
  4. https://www.apple.com/newsroom/2020/07/apple-commits-to-be-100-percent-carbon-neutral-for-its-supply-chain-and-products-by-2030/ ↩︎
  5. https://www.amazon.co.jp/最強Appleフレームワーク-ジョブズを失っても、成長し続ける-最高・堅実モデル-松村太郎/dp/4788719177 ↩︎
  6. https://www.apple.com/newsroom/2025/04/apple-surpasses-60-percent-reduction-in-global-greenhouse-gas-emissions/ ↩︎
  7. https://www.marketscreener.com/quote/stock/APPLE-INC-4849/news/Apple-2025-report-49636457/ ↩︎
  8. https://www.apple.com/newsroom/2024/04/apple-ramps-up-investment-in-clean-energy-and-water-around-the-world/ ↩︎
  9. https://www.esgdive.com/news/apple-2023-environmental-reports-emissions-halved-since-2015-carbon-neutral-esg/713873/ ↩︎
  10. https://www.reccessary.com/en/news/world-market/microsoft-asks-100-renewable-energy-for-suppliers-by-2030-amid-data-center-expansion ↩︎
  11. https://www.esgtoday.com/google-asks-large-suppliers-to-commit-to-100-renewable-energy-as-emissions-continue-to-rise/#:~:text=Google’s%20environmental%20targets%20include%202030,solutions%20to%20neutralize%20remaining%20emissions ↩︎
  12. https://news.samsung.com/global/samsung-electronics-announces-new-environmental-strategy ↩︎
  13. https://newclimate.org/news/reaction-samsung-electronics-joining-re100-and-committing-to-net-zero-by-2050 ↩︎
  14. https://www.apple.com/jp/environment/mother-nature/ ↩︎
  15. https://www.youtube.com/watch?v=ZiP1l7jlIIA ↩︎
  16. https://www.apple.com/environment/pdf/products/desktops/Mac_mini_PER_Oct2024.pdf ↩︎
  17. https://www.macotakara.jp/etc/report/entry-47869.html ↩︎
  18. https://m.macrotrends.net/stocks/charts/AAPL/apple/revenue ↩︎
  19. https://www.apple.com/jp/newsroom/2025/04/apple-surpasses-60-percent-reduction-in-global-greenhouse-gas-emissions/ ↩︎
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この記事を書いた人

Naoのアバター Nao 編集長

現在高校1年生で東京在住のApple信者で、ガジェットオタク。様々な観点からの情報を得ることで多角的にAppleのことを考える。普段からXにてAppleに関連したことを中心に情報を発信する。現在はM1チップモデルのiPad Proを所有し、ほぼ全ての作業をこなすiPad愛好家。

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