Appleが、2024年11月いっぱいでLightning製品の生産を終了すると言う内容の報道が出てきた。先日よりMagicアクセサリのUSB-C置き換えやケーブル類など関連製品の販売終了を続けており、ついにディスコンへと向かったという訳だ。また、2024年12月末より、EU域内で新規に販売する充電機器についてUSB-Cの採用が義務化される。この記事では、そんなLightning端子の歴史と現代にどう影響したかと言う点を振り返っていきたい。
Dockコネクタからの脱却
Appleは、2003年のiPod Classic以来、すべてのモバイル製品に長らく30ピンのDockコネクタを搭載してきた1。これにより、従来採用してきたFireWireと比べて薄型化を実現でき、よりスマートな見た目とすることができた。そして、この端子はiPodからiPhoneにも受け継がれる。Dockコネクタを引き続いて採用することでコネクタ関係を一新する必要がなく、成熟した市場であるためiPhoneの最初期の成長に大きく役立つことになった。
しかし、対抗するSamsungは日本市場に投入した当初のGALAXY SよりmicroUSBを採用しており2、iPhoneの採用するDockコネクタと比べると大幅に小型設計なものであった。そこで、Appleが負けじと投入した新しい端子がLightningである3。
LightningはDockコネクタと違い全てがデジタル接続で、30ピンから8ピンに削減することで物理サイズが80%減という大幅な小型化を図った。さらに、端子をリバーシブルな構造とし、ユーザーに表裏を確認させずに刺せるようにしたり、より耐久性の高い構造にできたりとユーザビリティが格段に向上した4。その成果としてiPhone 5は前世代機の4Sと比べ20%小型化でき、余裕の生まれた端子横のスペースにオーディオジャックを追加できた5。
もちろん、オーディオ出力やディスプレイサポートなどの性能はDockコネクタから保たれており、当初は変更への対応策としてLightningからDockコネクタへの変換アダプタが発売され、大きな問題もなくユーザーに受け入れられた。
microUSBを採用しないという選択
2009年に、Appleを含む携帯電話メーカーによって構成されるGSM Associationによって、microUSBで端子を標準化する方針が欧州で定められた6。しかし、前述したようにmicroUSBはリバーシブルではなく、ユーザビリティが低いことなどからAppleはLightningの採用を決断した。
具体的に、5ピンであるmicroUSBに対してLightningは8ピンであり、直接的なオーディオ出力やディスプレイ出力などに対応し、Dockコネクタから性能を落とすことなく移行できた。またmicroUSBと比べLightningはコネクタ内部にピンがあり、壊れにくい構造であることも特徴だ。
さらに、充電速度についてもmicroUSBは通常7.5W、QCで18Wに対して7、LightningではiPhone 8よりPowerDelivery (USB PD)規格に対応するようになったことで、最大9V/3Aの27Wまで対応した。データ転送性能についてはいずれも基本USB 2.0相当(480Mbps)だが、iPad Proの2017年モデルにてUSB 3.0 (=現在のUSB 3.2 Gen.1)相当(5Gbps)の速度まで対応した8。ただし、このLightningについては動作の不安定さが目立ってしまい、最終的にこれ以降のiPhone・iPadに採用されることはなかった。
MFiライセンスという戦略
Appleの独自規格として登場したLightningだが、microUSBの前例などから品質の安定性が保たれないことを危惧し、「Made for iPod, iPhone, iPad」の認証品としてサードパーティにライセンス提供されることになった9。略してMFi (ミーファイ)と呼ばれるこのシステムは、2005年のMacWorld ExpoにてDockコネクタ用のライセンスとして始まったことが発端だ。
MFiにより、ライセンスがついているものを選べば問題が起こりづらく、完全に性能を活かせるという安心感や円滑にサポートを進めるための手段としても使われるようになった。さらに、この認証チップに対し個数あたりのライセンス料が発生するため、iPhoneユーザーの広がりに合わせてサードパーティのMFiケーブルの需要が増え、Appleの利益になるというシステムでもあった。
当初はUSB-A to Lightningのみであったが、2017年にAppleがPDに対応したUSB-C to Lightningの発売を開始し、追って2018年にはPD対応のMFi認証ケーブルが各社から発売された。
USB-Cに託された標準化の夢
しかしながら、端子標準化への道がなくなったわけではない。Lightningを超える端子として、2014年に公開されたものがUSB-C (USB Type-C)である10。USB-Cは充電と、当初USB 2.0の転送性能を持ったものであったが、その後USB 3.1 Gen.1 (現在のUSB 3.2 Gen.1に相当)やVGA、HDMIによるディスプレイ出力にも対応し、このポートのみを搭載したMacBookが2015年には登場した。
この端子はリバーシブルで、サイズもmicroUSBやLightningと比べても遜色ないサイズに収まっている。且つオス端子の接点を外に露出させない構造としたことで、30ピンで細かい構造ながら壊れにくさも併せ持つようになった。
さらに最大40Gbpsの転送性能に対応したThunderbolt 3がUSB-C形状になるとPC市場にも広まり、特にMacはUSB-C形状のThunderboltを基本とした構成が現在まで続く。近年では120GbpsのThunderbolt 5が実用化される11など、ますます高性能化している。
USB-Cは従来microUSBを搭載していたAndroidスマートフォン市場にも新たな風を吹かせた。2015年のNexus 5X/ 6Pを皮切りに、伝説のGalaxy Note 7など各社により普及が進み、一躍標準的な端子になり得た。
EUによるLightningのけん制
当初AppleはLightningについて、「9年間搭載させ続けられる」と表現していたが、実際2021年のiPhone 13シリーズでも搭載は続いた。一方で、MacBookでは2016年よりUSB-Cに統一(Airは18年から)、iPadでも2018年のiPad Proを皮切りにUSB-Cへの移行が進んでいった。これにより、Lightningを搭載する製品がiPhoneと各種Appleアクセサリのみという状況になってしまい、USB-Cへの統一を望む声が強まる。
それに応じるように、欧州委員会では2021年9月に電子機器の充電方法をUSB-Cに義務付ける法案が提出、翌年10月に可決されたことで、猶予期間が終わった2024年12月よりEU域内で販売する機器のUSB-C採用の義務化が実施されることになった12。当初Appleは技術革新が阻害されるとして批判していたが、可決された後に発売されたiPhone 15シリーズでは晴れて全機種USB-Cへ移行されることになった。
USB-C化後のiPhoneでは、iPhone 15 ProでUSB 3.2 Gen.2相当の転送性能、iPhone 16 Proでは最大45Wでの充電などその性能を遺憾なく発揮しており、その変更はユーザーに広く受け入れられた。
最後に:Lightningの生き残りたち
2024年10月、Apple Intelligenceのリリースに合わせてM4を搭載したMacが多数発売され、それに併せてMagicアクセサリがUSB-C化された。さらに11月18日には一斉にLightning関連アクセサリも廃盤になり13、現在残るApple純正のLightning製品は以下の通りとなる。
- iPhone 14
- iPhone 14 Plus
- iPhone SE
- Apple Pencil (第1世代)
- EarPods (Lightningコネクタ)
- Lightning – USBケーブル (1m)
- USB-C – Lightningケーブル (1m/2m)
- Lightning – Digital AVアダプタ
- Lightning – USB 3カメラアダプタ
これらが淘汰される日もいつかは来るのだろうか。
- https://ja.wikipedia.org/wiki/Dockコネクタ ↩︎
- https://www.samsung.com/uk/support/mobile-devices/what-are-the-different-types-of-usb-cables/?srsltid=AfmBOortEK5WXabdZOigXAqAJG2Hl-xSb24Or4_B69CMTKUM-T7CLsYk ↩︎
- https://www.engadget.com/2012-09-12-apple-iphone-5-event-2012.html ↩︎
- https://techcrunch.com/2012/09/12/the-iphone-5-comes-with-the-new-lightning-connector/ ↩︎
- https://www.macworld.com/article/219321/review-iphone-5-takes-next-step-in-smartphone-evolution.html ↩︎
- https://japan.cnet.com/article/20388401/ ↩︎
- https://www.elecom.co.jp/pickup/contents/00018/ ↩︎
- https://ja.wikipedia.org/wiki/10.5インチiPad_Pro?t&utm_source=perplexity ↩︎
- https://en.wikipedia.org/wiki/MFi_Program?t&utm_source=perplexity ↩︎
- https://en.wikipedia.org/wiki/USB-C ↩︎
- https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1530628.html ↩︎
- https://techlabo.ryosan.co.jp/article/23062700_982.html#:~:text=USB%20Type%2DC充電義務化は、欧州連合(,最終承認されました%E3%80%82 ↩︎
- https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2411/18/news152.html ↩︎
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