AppleがWWDC22で発表した「次世代のCarPlay」は、「CarPlay Ultra」という名称で日本時間5月15日にアストンマーティンの自動車に搭載されることが発表された。この記事では、その特徴をさらいつつ、Appleがどういった立ち位置でこの自動車業界を見ているのかを考えていきたい。
CarPlay Ultraの概要
CarPlay Ultraは従来のCarPlayを大幅に進化させ、ドライバーの「すべてのスクリーン」にコンテンツを表示できるようになっている。インストルメントクラスター(計器盤)上には、Appleデザインの速度計・回転計などが表示され、そこにiPhoneの地図情報やメディア情報、さらに車両側から取得したADAS情報(先進運転支援システム)やタイヤ空気圧などがリアルタイムに重畳表示される。また、タッチ操作・ステアリング上の物理ボタン、Siriオーディオやエアコンといった標準機能に加え、サスペンションやドライブモードといった車固有のパフォーマンス設定までもCarPlay上で制御できるようになる。1
センターディスプレイとインストルメントクラスターのマルチスクリーンに対応し、そのテーマは多種多様なものが用意されている。ユーザーの好みに合わせてインターフェースの色や壁紙、デジアナなどスタイルを選べるほか、自動車メーカーもCarPlayようにカスタムテーマを作成することができるようになる。2
これにより、CarPlay Ultraは車載センターコンソールの画面も完全に置き換える形で動作する。例えば、ラジオアプリのUIではチャンネル一覧やお気に入りラジオがCarPlay上に表示され、従来の車載OSではなくiPhoneに近い操作感で選局ができる。同様にエアコン設定画面もCarPlayの画面上に表示ができ、温度や風量を変更すると車側と連動する。
以上のように、CarPlay Ultraでは自動車の情報システム全体がiPhoneベースで再構築された。
なお、これにはiOS 18.4以上を搭載したiPhone 12以降が必要である。3
自動車メーカーとの連携
Appleはこの新世代CarPlayの導入にあたり、まず高級車ブランドのアストンマーティンと連携することを選んだ。アストンメーティンでは「スーパーカー級SUV」DBXおよび同社コアのスポーツカー(Vantage、DB12、Vanquish)にCarPlay Ultraを搭載し、米加で新規注文者には標準装備とされている。既存モデルでも次世代インフォテイメントシステム搭載車に対し、ディーラー経由でソフトウェア更新によりCarPlay Ultra対応が提供される。4
開発体制
アストンマーティンの最新インフォテインメントシステムとAppleのCarPlayソフトウェアが緊密に統合された。センターディスプレイと計器盤の両方で動作するため、車両のコントローラやECUからデータを引き出すハードウェア連携が行われている。また、UIデザイン面ではAppleとアストンマーティンのデザインチームが協力して独自テーマを開発し、ブランドアイデンティティを表現している。
アストンマーティンの狙い
同社CEOのアドリアン・ホールマーク氏は、「当社のフォーカスはパワートレインや走行性能だけでなく、ユーザー体験やパーソナライズにもある」と述べており、CarPlay Ultra導入によってその最先端の情報システムで顧客体験を強化することを目指している。高価なスポーツカー市場において、iPhoneとのシームレスな連携や豊富なカスタマイズ機能を武器に差別化を図る狙いだ。
Appleの狙い
Apple側は「CarPlay Ultraをアストンマーティンでローンチするのは始まりにすぎない」としており、iPhoneした一貫した車内UXを再構築しようとしている。パートナー車種を通じて自動車業界でのプレゼンスを高め、将来的にはより多くのメーカーにCarPlay Ultraを展開する基盤を作る狙いだ。実際、Appleの報道発表ではヒョンデ(ヒュンダイ)、キア、ジェネシスなど今後対応予定のブランドについても言及されている。
幻のProject Titan
過去10年近く、Appleは自社開発のEV計画であるProject Titanにより、Apple Car(仮称)を開発することに巨額を投じてきた。562015年以降、数千人規模のチームが存在したとも伝えられているが、法規制や技術開発の難航、内外の提携難航などのより2024年にはその計画が白紙に撤回され、そのチームはApple Intelligenceチームをはじめ他へ分散していった。
しかし、CarPlay UltraにはProject Titanで得た車載UI設計やシステム統合の知見が反映されている。Apple自身も「多種多様な車種・画面サイズに対応するのは容易ではない」と認めており、このCarPlay Ultraではモジュラー設計を採用し「車載ダッシュボードのゲージをiPhoneのウィジェットのようにリサイズ・再配置できる」と説明している。これはProject Titanで問題となった車種間の違いを吸収するアプローチであり、CarPlay Ultraでは前述したように各メーカーのブランド哲学を反映したテーマさ区政などの協業体制で実現されている。7
自動車開発の分野では、非常に安全面との問題が隣り合わせで付きまとうため、それによって自社の車に批判が集まるのを避けつつ、自動車メーカーのシステム面に深く関わることで自社のエコシステムを広げることに一役買うような、安牌を切った戦略とも言えるだろう。なお、安全面についてもApple Watch Series 8以降には衝突事故検出が搭載されているため、そちら側の対策も万端だ。
総括
このCarPlay Ultraは、iPhoneユーザーにおける車との接続方法を変え、車内体験を統一的に再構築するものとなった。特に、従来から存在するデジタルカーフキーの機能と連携してiPhoneだけで車のロック解除から始動までできるエコシステムを構築中である。iPhoneを中核としたモビリティ体験の実現に受けた一歩であり、且つApple MapsによるナビゲーションやApple MusicやApple Podcastによる車内エンタメ環境の整備など、iPhoneを中心としたすでに存在する強いエコシステムも十分に活かした形であるというのはAppleらしい強みだろう。
今後は、iPhoneと連携していることを活かしてApple Intelligenceの搭載にも期待したい。先日のThe Android ShowでGoogleはAndroid Autoにも自社AI「Gemini」の統合を発表したばかりであり8、それに対抗する意味合いでもApple Intelligenceへ対応するメリットはあるのではないだろうか。また、Apple Watchと連携した健康モニタリング(ドライバーの居眠り検知など)や、帰宅時に自宅のエアコンがオンになるようなHomeKit系との連携というようなエコシステムをより活かした機能についてもぜひ期待をしたい。
- https://www.apple.com/newsroom/2025/05/carplay-ultra-the-next-generation-of-carplay-begins-rolling-out-today/ ↩︎
- https://www.thurrott.com/apple/320972/apple-carplay-ultra-launches-on-new-aston-martin-cars-in-the-us-and-canada ↩︎
- https://techcrunch.com/2025/05/15/apple-finally-launches-next-gen-carplay-ultra-software-starting-with-aston-martin/ ↩︎
- https://media.astonmartin.com/aston-martin-debuts-apple-carplay-ultra-for-iphone-users ↩︎
- https://gigazine.net/gsc_news/en/20240304-apple-car-project-titan-history/ ↩︎
- https://en.m.wikipedia.org/wiki/CarPlay ↩︎
- https://gizmodo.com/apples-new-carplay-ultra-wont-fix-the-biggest-problem-of-phone-connected-cars-2000602761 ↩︎
- https://www.itmedia.co.jp/mobile/articles/2505/14/news096.html ↩︎
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